こんにちは.高山です.
今回は今までの技術記事とちょっと変わって,『手話言語白書-多様な言語の共生社会をめざして』という本を紹介したいと思います.
手話言語に関する書籍は,図書館や本屋,または Amazon を探せばそれなりに見つかります.
手話言語に関わる経緯は人それぞれだと思いますが,いざ勉強をしようとすると (特に語学以外で) 何から手を付ければよいのか分からない方も多いのでは無いでしょうか?
高山自身は,大学のポストドクターとして紹介された仕事を通じて手話言語に関わることになったので,この分野に関する特別なバックボーンを持っていません.
研究開発当初は目の前の仕事を片付けながら,手当たり次第に論文や書籍を読んでいってかなり遠回りな勉強をした覚えがあります.
『手話言語白書』(以降は本書と表記します) は,耳が聴こえない,および聴こえにくい方々が受けていた様々な差別や苦労を整理し,それらを解消するための運動や提言をまとめた本です.
手話言語に関する教育,歴史,制度など幅広いトピックが分かりやすい文章で書かれています.
手話言語について学ぶ 1冊目として良い書籍だと思いますので,本記事で簡単に紹介させていただきたいと思います.
なお,本書は日本手話言語や日本語の手話を話せるようになるための,いわゆる語学書ではないのでその点は注意してください.
1. 全日本ろうあ連盟の紹介
本書は複数人の編者,および著者による共同執筆で,一般財団法人全日本ろうあ連盟 (以降,全日本ろうあ連盟と表記します) が編集を担当しています.
執筆陣は全日本ろうあ連盟の方々,手話言語関連の研究されている大学と弁護士 (法律や制度関連の話が含まれていますので) の先生方で構成されています.
(各著者の紹介はここでは割愛させていただきます)
全日本ろうあ連盟は,全国に傘下団体を持つろう者の当事者団体です.
ろう者の人権尊重,文化水準の向上,および福祉の増進を目的としており,ろう者や手話言語に関する各種の運動や政策提言を行っています.
2. 本書の構成と内容
本書ではまず第一章で,"手話言語の 5つの権利" を紹介して,3章以降で各権利に関するトピックを解説するという構成になっています.
(第2章は基本知識と用語の説明をしています)
手話言語の 5つの権利と各章の内容を図1に示します.
各章の内容を簡単に紹介します.
手話言語を獲得する (第3章)
"手話言語を獲得する"とは,手話言語を第一言語 (母語) として身につけることを意味します.
この章では聴覚障がいの発見や,乳幼児の手話言語獲得プロセス,聴こえない子供とのコミュニケーションについて解説しています.
ページがそこまで多いわけではないですが,当事者にとっては非常に重要な情報が書かれている章です.
手話言語で学ぶ (第4章)
"手話言語で学ぶ"とは,教育を手話言語を使って行うことを指し,この章ではろう教育 (聴こえない人への教育) の歴史と現在の取りくみが解説されています.
ろう教育では長い間口話教育 (教育を音声言語で行う) が主流でした.
聴こえないおよび聴こえにくい人の障がいの程度はかなり幅があるため,口話教育を全員に単純に適用するのは難しく,様々な問題を生み出していることが指摘されています.
口話教育の反省を踏まえ,現在では手話を取り入れた教育や,教育を全て手話言語で行う取り組みがされています.
この章では,具体的な教育機関の紹介や手話言語による教育の体験談も記載されていますので,進学などの参考になると思います.
手話言語を学ぶ (第5章)
"手話言語を学ぶ"とは,手話言語自体について理解していくこと,およびそのための言語教育を指しています.
一部に第4章と重なる内容もありますが,全体としては手話言語の研究を通じて判明した事柄や,手話言語に関する知識を整理する試みなどが紹介されています.
少し学術的な内容ですが,高山のように研究開発の立場で手話言語に関わる者にとっては,抑えておかなくてはならない章です.
手話言語を使う (第6章)
"手話言語を使う"とは,手話言語を使って社会生活を営むことを指しています.
以前は手話言語に対する認知および理解が広まっておらず,聴こえない人々は手話言語を自由に使えずに様々な苦労や差別を受けてきました.
(現在も完全に解消されたわけではありません)
この章では,手話言語が聴こえない人々にとって単なるコミュニケーション手段を超えて,アイデンティティや尊厳に関わる問題であることを解説しています.
同時に,手話言語を自由に使える環境を手に入れるためにこれまでの運動,いわゆるろうあ運動の歴史と現状について解説しています.
手話言語を守る (第7章)
"手話言語を守る"とは,手話言語に関する各種の権利を法的に保護することを指します.
この章では,手話言語および聴こえない人々に関する関連法規と,手話言語条例制定までの道のりを解説しています.
法律に関する話のため慣れていないと理解するのが少し大変かもしれませんが,第6章と第7章は全日本ろうあ連盟の活動と深く関わる内容であるため抑えておきたい点です.
3. 個人的に重要と感じた点
本書の第3章から第7章は,手話言語法制定を目指すにあたって定義した 5つの"権利"に沿った構成になっています.
個々のトピックに引っ張られて失念してしまいがちですが,本書は聴こえない人々にとっての「言語権」を主張しています.
言語権は人権の一種ですので,その侵害は人権侵害の一種ととらえることができます.
このように考えると,「何故手話言語法が重要なのか?」,「情報保障やコミュニケーションの法律だけでは不十分なのか?」が理解しやすくなるのではないでしょうか.
今回は,『手話言語白書-多様な言語の共生社会をめざして』を紹介させていただきましたが,如何でしたでしょうか?
本書は手話言語に関する歴史,教育,制度など幅広いトピックを分かりやすい表現でまとめています.
字が大きくて読みやすいのも嬉しい点です.
本書を入口として,専門書や異なる立場からの意見も併せて読んでいくと,より理解が深まりそうですね.
高山もまだまだ勉強中の身ですので,これからも面白そうな手話言語関連の書籍を見つけては紹介していきたいなと思っています.
今回紹介した話が,手話言語を勉強してみようとお考えの方に何か参考になれば幸いです.